令和5年6月30日、公正取引委員会より、令和4年度の相談事例が公表されました。独占禁止法に関する相談事例の傾向をみることで、近年、実際の事業者の事業活動や取引において、どのような問題が生じているのかを検討してみたいと思います。
令和3年度における一般相談(書面回答と相談内容等の公表を前提とする「事前相談制度」によらないもの)の件数が1855件であったのに対し、令和4年度においてはその件数が3017件となっており、約1.6倍まで増加しております。
一般相談がそのように増加した要因はどのようなものだったのでしょうか。
令和4年度における一般相談3017件のうち、事業者の活動に関する相談が2879件であり約95%、事業者団体の活動に関する相談が約5%を占めています。令和3年度においても、一般相談1855件のうち、事業者の活動に関する相談が1782件で約96%、事業者団体の活動に関する相談が約4%であり、その点に大きな変化はありませんでした。
令和4年度における事業者の活動に関する相談の内訳をみると、以下のとおりとなっております。
・流通・取引慣行に関する相談 2631件
-優越的地位の濫用に関する相談 2094件
・共同行為・業務提携に関する相談 110件
・技術取引に関する相談 7件
・共同研究開発に関する相談 6件
・その他 138件
計2879件
事業者活動に関する相談の内訳を、令和3年度と上記令和4年度の相談件数を比較すると、流通・取引慣行に関する相談が1620件から2631件に増加しております。
さらに、優越的地位の濫用に関する相談件数をみると、令和3年度が1187件であったのに対し、令和4年度は2094件まで増加しております。
そうすると、令和4年度の一般相談件数が令和3年度から約1.6倍に増加した原因は、優越的地位の濫用に関する相談件数が倍近くまで急増したことにあることが分かります。
【一般相談件数】 (R3)1855件 (R4)3017件
【うち事業者の活動に関する相談件数】 (R3)1782件 (R4)2879件
【うち流通・取引慣行に関する相談件数】 (R3)1620件 (R4)2631件
令和4年度の相談事例集においては、9件の具体的相談事例が掲載されております。そのうち、事業者の活動に関する相談が3件、事業者団体の活動に関する相談が6件となっておりました。
前述のとおり、一般相談においては、事業者の活動に関する相談が約95%、事業者団体に関する相談が約5%の割合であることからすれば、事業者の活動に関する具体的相談事例をもっと掲載して欲しいところです。
事業者の活動に関する相談に関する具体的相談事例3件をみてみると、以下の規制行為に関するものであり、そのなかに優越的地位の濫用に関する具体的相談はありませんでした。
相談事例1 不当な取引制限
相談事例2 不当な取引制限、拘束条件付取引、競争者に対する取引妨害
相談事例3 再販売価格の拘束
直近で生じている優越的地位の濫用に関する具体的事例について何か情報はないか確認してみたところ、公正取引委員会HPの「よくある質問コーナー(独占禁止法)」に以下のQ&Aが掲載されておりました。
Q「労務費、原材料費、エネルギーコストが上昇した場合において、その上昇分を取引価格に反映しないことは、独占禁止法上の優越的地位の濫用として問題となりますか。」との質問とそれに対する回答が掲載されておりました。
質問の内容に意味の取りにくいところがありますが、「優越的地位の濫用」に関する質問であることからすると、おそらく以下のような質問ではないかと考えられます。
質問者は、物品の製造を委託する事業者であり、これを受託する製造業者との取引関係において優越的地位にあることが想定されます。
そのような状況の下、上記委託者が、当該物品の製造において「労務費、原材料費、エネルギーコストが上昇した」ものの、納入価格においてその上昇分を上乗せせずに、従来の納入価格を維持し、「取引価格に反映しないこと」は、優越的地位の濫用として違法となるかとの質問を行ったものと予想されます。
これに対し、以下の回答が掲載されています。
A「1 労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコストの上昇分の取引価格への反映の必要性について、価格の交渉の場において明示的に協議することなく、従来どおりに取引価格を据え置くこと
2 労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコストが上昇したため、取引の相手方が取引価格の引上げを求めたにもかかわらず、価格転嫁をしない理由を書面、電子メール等で取引の相手方に回答することなく、従来どおりに取引価格を据え置くことは、優越的地位の濫用として問題となるおそれがあります。」
かかるQ&Aが「よくある質問コーナー」に掲載されていていることを考慮しますと、令和4年度において優越的地位の濫用に関する相談件数が倍近くまで急増した理由については、近年の円安による製造コスト等の上昇を背景とする価格転嫁に関する相談が一定の件数を占めていたのではないかと予想されます。
このほか、公正取引委員会より、令和4年6月1日に荷主と物流事業者との間の取引に関する優越的地位の濫用事案の処理状況について公表がなされております。それによりますと、優越的地位の濫用が疑われる事案について、書面調査及び立入調査を実施し、様々な業種の事業者や組合777名に対し、注意喚起文書が送付されたとのことです。
荷主と物流事業者との間の優越的地位の濫用に関しては、また別の記事にてご紹介をさせて頂きます。
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