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スタートアップ企業との事業連携に関する注意点:①共同研究開発

#独占禁止法 #スタートアップ法務

2023.09.26

スタートアップ企業との事業連携について

 経済産業省(経済産業省のWEBサイト (METI/経済産業省))と公正取委員会(公正取引委員会 (jftc.go.jp))は、令和3年3月、共同で「スタートアップと事業連携に関する指針」を公表しています(「スタートアップとの事業連携に関する指針」を策定しました (METI/経済産業省))。

 「スタートアップと事業連携に関する指針」(以下「本指針」といいます。)は、スタートアップ企業と連携事業者(一般的には大企業が多いものと予想されます。)との間におけるあるべき契約の姿・考え方を示すことが目的とされています。

また、本指針では、スタートアップ企業と大企業等との事業連携において、NDA(秘密保持契約)、PoC(技術検証)契約、共同研究契約及びライセンス契約並びに出資者との間の出資契約において生じる問題事例とそれに関する独占禁止法・競争政策上の考え方が整理され、問題の背景及び解決の方向性が示されています。

 本稿では、本指針で紹介されている、スタートアップ企業が大企業等と事業連携を行う際に留意すべき、共同研究開発に関する独占禁止法の考え方にクローズアップしてご紹介させて頂きます。

 

スタートアップと共同研究開発

 スタートアップ企業と大企業等との間で事業提携が行われる場合には、秘密保持契約、技術検証(PoC(Proof of Concept))に関する契約が締結され、技術検証が実施された後に共同研究開発契約が締結され、実際に共同研究開発の実施に至ることが通常かと思われます。

 

  ① 秘密保持契約

     ↓

  ② 技術検証(PoⅭ)契約

     ↓

  ③ 技術検証の実施

     ↓

  ④ 共同研究開発契約

     ↓

  ⑤ 共同研究開発の実施

 

 本指針においては、共同研究開発に関し、以下の3つの場面での独占禁止法上の留意事項が指摘されていますので順に紹介していきます。

 

   (1)知的財産権の一方的帰属

   (2)名ばかりの研究開発

   (3)成果物利用の制限

 

知的財産権の一方的帰属

 

 本指針では、独占禁止法・競争政策上の問題が生じ得る事例として以下の3つの事例が紹介されています。

 ※以下の事例では、スタートアップ企業をA社、通常大手企業となることが多いと考えられる連携事業者をB社と表記します。

 

【事例1】

 A社は、技術検証や共同研究開発に入る段階において、B社より、共同研究開発契約書のひな形を押し付けられる形で共同研究開発契約を締結した。
 共同研究開発契約書では、技術検証や共同研究開発による成果物の権利が、B社に一方的に帰属する内容とされていた。

 

【事例2】

 A社は、共同研究開発において、B社から、知的財産権の無償提供に応じさせられた。

 

【事例3】

 A社にとって、大企業であるB社との取引実績がなくなると、信用の確保が難しくなるため、共同研究開発契約を締結する際、B社の立場が強く、B社と交渉することは難しかった。

 A社は、当該共同研究開発において、B社から、一方的にA社が保有する知的財産権の譲渡を求められ、B社に譲渡せざるを得なかった。

 

 

〇独占禁止法上の考え方

 上記の3事例は、B社による優越的地位の濫用として、独占禁止法上問題となり得る事例として紹介されています。

 このような事例においては、

 ①取引上優越的地位にある連携事業者が、スタートアップ企業に対し、共同研究開発の成果に基づく知的財産権の無償提供等を要請し、

 ②スタートアップ企業が、上記①の要請に応じなければ、共同研究開発契約が打ち切られるなど、今後の取引に与える影響等を懸念して、当該要請を受け入れざるを得ず、

 ③スタートアップ企業には、それに見合った対価の支払があるなどの正当な理由もない場合、

正常な商習慣に照らし、スタートアップ企業に対して不当に不利益を与えることとなるおそれがあり、連携事業者による優越的地位の濫用(独占禁止法第2条9項5号)として問題となるおそれがあるとされています。
 

 したがって、優越的地位にある大企業がスタートアップ企業に対して、

①共同研究開発の成果の無償提供を要請し、

②スタートアップ企業においてそれに応じざるを得ない事情があり、

③相応の対価支払等の正当な理由もない場合には、

独占禁止法違反が問題となり得ますので注意が必要となります。

 

名ばかりの研究開発

 

 本指針においては、共同研究開発の大部分がスタートアップ企業によって行われたにも拘わらず、その成果となる知的財産権を、連携事業者のみ又は双方に帰属させる契約が締結されるような場合を「名ばかりの研究開発」として取り上げています。

 

 「名ばかりの研究開発」が独占禁止法上問題となり得る事例としては、本指針では4事例が掲載されています(そのうち2事例が類似案件のため本稿では3事例を紹介します)。

※以下の事例では、スタートアップ企業をA社、通常大手企業となることが多いと考えられる連携事業者をB社と表記します。

 

【事例1】

 A社は、共同研究開発の中心となるプログラムの開発自体をすべて行うにも拘わらず、成果物の特許をすべてB社に帰属させるという一方的な契約書を受け入れさせられた。

 

【事例2】

 共同研究開発といっても、A社が、技術、ノウハウ、アイデアのほとんどすべてを提供しており、B社は、共同研究への貢献度がほとんどないにも拘わらず、成果物の特許については、A社B社による共同出願とすることとされた。

 

【事例3】

 A社がすべての研究開発を行い、B社は、A社が開発した技術の試験運用を行うのみであるにも拘わらず、A社は、B社より、開発した技術の半分の権利を渡すよう、一方的にB社に有利な契約を締結させられた。

 

 

〇独占禁止法上の考え方

 本指針では、「名ばかりの研究開発」においても、前述の「知的財産権の一方的帰属」と同様の考え方が採られております。

 そのため、優越的地位にある大企業がスタートアップ企業に対して、

①共同研究開発の成果の全部又は一部の無償提供を要請し、

②スタートアップ企業においてそれに応じざるを得ない事情があり、

③相応の対価支払等の正当な理由もない場合には、

提携事業者による優越的地位の濫用として独占禁止法違反が問題となり得ますので注意が必要となります。

 

成果物利用の制限

 

 また、本指針においては、連携事業者が、スタートアップ企業に対し、共同研究開発による成果物の販売先を制限する場合において、独占禁止法上問題となり得るとして、以下の2事例を紹介しています。

※以下の事例では、スタートアップ企業をA社、通常大手企業となることが多いと考えられる連携事業者をB社と表記します。

 

【事例1】

 A社は、B社より、A社のみで開発したサービスを導入する際に、B社の「競合他社には販売しないように。販売した場合には取引を白紙に戻す。」などと指示を受け、受け入れざるを得なかった。

 

【事例2】

 A社が、B社との事業連携の経験を活かして改善したAIは、元々A社が独自に開発し、B社の重要な情報は入っていないにも拘わらず、A社は、B社より、当該AIを他社に販売しないよう制限された。

 

 

〇独占禁止法上の考え方

 本指針では、連携事業者が、市場における有力な事業者である場合、合理的な期間制限もなく、共同研究開発による成果物となる商品・役務の販売先を制限し、それにより市場閉鎖効果(※後記)を生じるおそれがある場合には、「排他条件付取引」(不公正な取引方法第11項)又は拘束条件付取引(不公正な取引方法第12項)として、独占禁止法上問題となり得ることが指摘されています。

 

※市場閉鎖効果:市場への新規参入者や既存の競争者が市場から排除されたり、取引機会が減少したりするような状態をもたらすおそれがある場合をいいます。

 

最後に

 

 スタートアップ企業との共同研究開発を前提とする事業連携の具体的な場面において、どのような事例が独占禁止法上問題となり得るかについては、独占禁止法を扱ったことのある専門家でなければその判断はなかなか難しいのではないかと考えられます。
 当事務所では、独占禁止法の遵守を始めとする御社のコンプライアンスの取組への貢献や独占禁止法違反事件への対処について適切な対応をさせて頂くことができますので、ぜひお気軽にお問合せを頂ければと存じます。

 

 

 

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